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世界中の本好きのために

大石英司

Profile

1961年生まれ、鹿児島県出身。1986年『B‐1爆撃機を追え』(講談社)で小説家デビュー。ミステリーからSFまで何でも屋を自称。著書に『戦略原潜(レニングラード)浮上せず』をはじめとする「サイレント・コア」シリーズ、テレビドラマ化された『神はサイコロを振らない』(中央公論社)等多数。執筆活動の他、海外エアショーのレポート、日刊のメールマガジンの発行も行う。 近著に『謎の沈没船を追え!(上下巻)』『米中激突(全8巻)』(C・NOVELS)『尖閣喪失』など。

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本もネットの時代。いくつになってもパイオニアでありたい



現代の国際政治、軍事状況を中心に執筆する作家の大石英司さんは、NIFTY-Serve時代からネットワーカーとしても活動。現在は作家としての活動や海外エアショーのレポートのほか、早くからブログ、日刊のメールマガジンを発行し、時事全般を論評されています。『神はサイコロを振らない』、『尖閣喪失』、『米中激突』など、自衛隊の特殊部隊を軸にしたシリーズや、近未来のサイバーSF的な作品などを出されています。今後はネット、電子書籍の世界に積極的に入り込んでいくことが必要と話す大石さんに、これからの出版社や本のあり方をうかがいました。

ネットと供に


――大石さんがネットでの活動を始めたのはいつ頃なのでしょうか?


大石英司氏: NIFTY-Serveのパソコン通信から始めて、かれこれ20年、読者とやり取りしています。自分に対して言い聞かせているのは、知らないことは罪ではないけれど、知ろうとしないことは罪であるということ。知っておいて損はない話は、恥を忍んで読者に聞くことにしています。
僕のブログ『代替空港』は、読者の交流の場ではなく、僕が書いた記事をたたき台にして、読者が持っている知識で議論を深めていくための場所なので、結果として僕にフィードバックしてもらい、その情報を読者と共有する場なのだということを公言しています。

――ライターとしては、どのようなスタートだったのですか?


大石英司氏: この業界に入った切っ掛けは、経済誌の編集プロダクションライターのバイトを見付けて、下請けの更に下請けといった感じではありましたが、最終的にはその編集部で経済誌を出すまで行きました。バブルの真っただ中だったので、原稿料は多分今より良かったと思います。食事の回数を減らして小説の原稿を書いて、週に何度か図書館に行って資料をあさるという感じでしたが、それで食えていた、とは言える状況ではありませんでしたね。それでも書き続け、新人賞に応募して、講談社でのデビューにつながりました。当時はネットの全くない時代だったので、公立図書館から国会図書館まで回って、デビュー作の時は下準備に2年間掛かりました。でも、「君の年齢でデビューは早過ぎるから」と言われて、原稿を1年寝かせてからデビューすることになったんです。その『B-1爆撃機を追え』が当たったのは、幸いでした。

――ネットが発達してきて仕事の仕方は変わりましたか?


大石英司氏: ペーパーは速報性というところでネットには敵わないから、ネット中心になりましたね。しばしば、ネットは正確さに欠けると言われますが、じゃあペーパーは正確なのかという話になりますよね。
パソコン通信を始めた頃に、NIFTY-Serveがニュースクリップというサービスを持っていたんです。月極めで500円だったかな。例えば、「政治」「軍事防衛」などというキーワードを入れると、キーワードに引っかかったニュースが一覧で届くようになっていて、それが非常に便利でした。パソコンが登場してからは、ネットで原稿を送り始めるようになりました。この業界で、ネットで原稿を送りはじめたのは、僕がおそらく2、3番手あたりだと思います。「僕の原稿が欲しかったら、ネット環境を整えて下さい」と、編集者に啓蒙活動をしていましたね(笑)。

電子書籍は電子書籍で伸びていく


――電子書籍は利用されていますか?


大石英司氏: 友達が書いた本でKindleでしか出てないものがあって、どうしてもそれが読みたくて四苦八苦してNexus 7 でKindleのIDを取りました。でも、1章読んだ時点でバッテリーがなくなりそうになりました。これがタブレット端末の難点ですよね。常時バッテリーが気になってしまって、テキストに集中できない。しかも、画面がツルピカだから、テキストを読むことに全く適してない。僕らはノートパソコンがモノクロだった頃から使っているので、ツルピカ液晶がだめなんです。すごく疲れてしまいます(現在はKindle を所有!)。
僕は、偶数年の7月にはイギリスのロンドンに、奇数年の6月にパリに行くというように、毎年決まった時期にヨーロッパに行くのです。それをもう20年続けていますが、行く度に街の景色が変わっていっています。ここ4、5年でガラッと変わったのが、街の人々が使っているのが9割方iPhoneになったこと。あと、ここ2、3年で、電車に乗っている時に車内でKindleを使って読んでいる人が増えましたね。特にロンドンは英語圏ということもあって、電車に乗ると必ず3、4人はKindle持って読んでいます。日本ではまだあまり見ませんが、ヨーロッパではそういった状況ですから、おそらく、アメリカではもっと進んでいるのでしょう。

――Kindleの良さはどういった点にあるのでしょうか?


大石英司氏: 1つは公衆の中でプライバシーが確保できることではないでしょうか。本や雑誌だとカバーをかけないと何を見ているか分かってしまうけれど、Kindleはテキストまで読まないと分かりませんよね。それを考えるとすごく便利な機械だと思います。

――日本でなかなか普及しない理由は、どこにあると思われますか?


大石英司氏: 7割方の理由は、出版業界があまり乗り気でないということではないかと、僕は思っています。日本の場合は、昔、Amazonが入ってくるまでの間に、業界でKindleに備えて、自分たちでオンラインストアを立ち上げたわけです。僕の本も10年位前からネットで買えるようになっていますが、それに関して儲けはいったん全部出版社に入り、そこからの配分は出版社に100パーセントの裁量があるのに、Kindleで出したら儲けは30パーセントと言われたら、納得できないですよね。そういった合理的な理由があるのも分かります。だから、その点に関してはもう少しAmazon.comも出版業界と折り合うような努力をしてくれないと出版社も著者も困ってしまいます。昔からの蓄積があって、そこで儲けを出しているにも関わらず、Amazonがアメリカと全く同じ理屈で入って来て、「条件を飲め」と言ってきたものだから、うまくいかないのは当然のことのように思います。

――日本の出版業界が原因といった風潮もありますが、それだけではないのですね。


大石英司氏: そうなのです。例えば、雑誌がメインの会社は、書店や駅売りで部数が落ちることを恐れている。でも単行本だと、電子書籍で売れた分、紙の売れ行きが落ちるということはほとんどないのです。僕の本に関して言えば、単行本で得られる年収の1割位を電子書籍で得ています。ですから、電子書籍が売れたからといって活字の売れ行きが相殺されるということはありません。電子書籍は電子書籍で伸びるというのが、現段階での僕の結論です。
僕たちライターが恐れているのは流通です。電子書籍が売れた分、紙の本の売れ行きが落ちるという話で済まない現状があります。電子書籍はフォーマットさえ作ってしまえば、幾ら売れるかは分からない。100冊かもしれないし、10000冊売れるかもしれない。ただ、そのコストは紙の本とほとんど同じです。ところが、例えば10000冊、ペーパーで刷っている本が、Kindleで1000冊売れた場合。電子書籍が1000冊売れた時に、「ペーパーの本が9000冊しか売れませんでした」となると、出版社側からしたら紙版の赤字が1000冊分出たということになりますよね。バブルの頃は、10000冊売れる本なら12000冊刷っていて、倉庫に2000冊返ってきても8割売ったら良しとしていたんです。でもバブルがはじけた後は、10000冊刷って実売9000冊なら、返本を減らすために8000冊に抑えましょうということになりました。いくら売れるか解らない電子書籍のために、紙の本の部数が抑制される可能性を、編集者もライターも恐れている。これが、デフレに陥ったここ20年の出版業界の現状です。

新しいメディアを受け入れることが重要


――出版社はどう変わっていけばいいとお考えでしょうか?


大石英司氏: 生き残りを考えるには、新しいメディアにどう取り組むかが重要。拒否しないという姿勢が大事ですよね。
電子書籍と紙媒体が競合をしないということを、理解している作家は少ないと思います。作家にとっての脅威は、スキャンしたテキストデータがばら撒かれること。その損害は10万、20万単位になってきますから、それだけの読者がいるのに全くインカムがないことを恐れる訳です。古書店に流通してしまうと、著者に一銭も入ってこないということもよく言われていますが、ただ、この業界で今一番悪影響を及ぼしているのは、ブックオフなどの中古書店ではなくてAmazonの古書販売ではないかと僕は思っているのです。Amazonで新刊を買おうと思っても、下に「新品同様です」と表示されてある古書の方が安いからそっちを買ってしまいます。Amazonの古書書籍を一番重宝しているのは、出版業界の人間ではないでしょうか。編集者と会うと「一番の脅威は自炊じゃなくてAmazonの古書販売でしょ」といつも言っているのです。

――自炊に関してはどのようなご意見をお持ちですか?


大石英司氏: 僕は、「本棚を10年間占有している本を捨てられないのならば、とりあえず自炊に出してみてはどうか」と、読者には自炊を推奨しています。思い出深い本なら表紙だけ送り返してもらって、その棚を空にして新しい本を買ってみてくださいと。だって、一番の頭痛の種は新しい本を入れる『空間』がないことでしょう?自炊業界も、その辺りの戦略というか、広報を間違えてしまったんじゃないかと僕は思っているのです。「自炊すると便利だ」といことを売りにするのではなくて、「自炊すると本棚が空くから新しい本が買えます。だから、出版業界も決して損はしませんよ」という線で攻めるべきだったのだと思います。

――「本を裁断するという行為に堪えられない」とおっしゃる方もいますね。


大石英司氏: 「本を傷つけるのが悲しい」とか「許せない」などと言いますが、その本が読者の家の中でデッドスペースを作っているというのが現実なのです。それでは経済は動かない。僕が考えたのは、第三者団体を作ってそこにいらなくなった本を送ると、その代わりに出版社が持っているテキストデータをバックする。それで、「この本は永久にあなたのところに残ります。」と、それで良いと僕は思うんです。
今、お付き合いしている中央公論新社で懸案になっていることがあるんですが、中央公論新社は電子書籍化が割と早かった会社で、独自のフォーマットがあります。でも、今はKindleが優勢となり、読者もKindleの方へ移行する訳です。そうするとパソコンを手放すユーザーもいますし、Kindleと日本の出版社独自のシステムフォーマットのどちらが将来残るかと考えれば、購入して貰った出版社独自のフォーマットは、読者にとって使い勝手が悪くなる可能性が高い。こういう問題がいずれ出てきますから、それに関しては、業界的に考えなければいけないことだと思っています。僕としては、できれば日本独自のフォーマットのものを買った読者には、Kindle版が出たらその読書権を無条件にプレゼントするような形にしてほしいと思っているのです。ただ、それは各出版社にとって自社フォーマットの敗北を認めることになるから、ハードルの高い問題でもあります。

――そういった考えを持つ書き手が増えるのももちろん大事ですが、業界が変わっていくことも大事になっていきますね。


大石英司氏: 紙での出版に執着している編集部や出版社は衰退していくのではないかと僕は思います。これからはネットでのオンライン展開をメインにしている編集部でないと生き残りは難しいのではないでしょうか。
電子書籍の部門は、「本業の邪魔をしないでね」という感じだからなかなか普及しない、といこともあると思います。電子書籍を立ち上げて、「ここから必ず儲けを出してやる」というような人がいない気がしますね。でも、WEBのニュースには、誤字脱字がすごく多いんです。書いた本人しか推敲していないからそのリスクは避けられないのかもしれませんが、その辺りの努力をもう少ししないと、信頼感は得られないだろうなと思います。ただ、電子の場合はどうしても速報性が命なので、推敲作業などを入れてしまうと、それだけで半日くらい時間をとってしまいます。だから、例えば在宅ワークで午前3時に起きている人を捕まえて推敲してもらうなど、そういう仕事ができるようにならないと難しいですね。

ブログ上で行われる「いい」議論


――ブログを長く続けられていますね。


大石英司氏: 10年間ブログをやっているのですが、正月や海外に行った日などを除いて、363日くらい書いています(笑)。ネットを利用する上で僕が一番好きなのは、100人を敵に回して議論し終わった時に、「お前のことはいけすかないけど、言っていることは正しい」という評価をもらえるような議論ができることなのです。例えば防衛問題に関して言えば、日本の保守層には昔から在日米軍は台湾有事のために必要だという非常に強固な説があるんです。ところが実態は、もはや在日米軍の頭に台湾防衛の意志はないのです。そういったことを繰り返し書いてきて、今は、台湾有事を言う人はネットでは減ってきました。自炊の問題も同じです。「書棚の山をなんとかしたい」という意見と、出版社側の「本をズタズタにするんじゃない」という意見対立の間に「でもさ、この本棚を空にして新しい本を買ってもらった方が得じゃない?」という意見を僕が書いて、徐々に世間に認知されていく。自分と同じ意見が増えてきた、同調してくれる人が増えてくれたという場面に立ち会うのが発信者としてはうれしいし、それは快感でもあります。最初は「こいつ、何を言っているんだ」と思われても、繰り返し説いていって、「なるほど。少数派だけれど、あなたが言うことも一理ある」と思われること。これが僕のNIFTY-Serve時代からの喜びなのです。

――最後に今後の展望をお聞かせください。


大石英司氏: そろそろネットオンリーということを考えなければいけないと思っているのです。活字はもう、どうあがいても人口が減っていく訳ですから、右肩下がりは決まっている。そのパイを広げていくためには、もうネットの中に出ていくしかありません。ネットの中で展開して、そこから確実に黒字を回収できるシステム。そういうシステムを業界皆で考えなければいけないと思います。
IT関係にしても、広告収入だけに頼れない状況がありますから、そこを変えていかないとネットメディアも生き残れないと思います。
活字から、ネットメインへ。この歳になってもまだ、自分がパイオニアでありたいと思い続けているのです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 大石英司

この著者のタグ: 『考え方』 『アドバイス』 『出版業界』 『インターネット』 『価値観』 『本棚』 『メディア』

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