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渡邊啓貴

Profile

1954年、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業、同大学院地域研究科修士課程、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程、パリ第1大学大学院博士課程修了(DEA)。国際関係論・ヨーロッパ国際関係史・フランス政治外交論・米欧関係論・広報文化外交等を専門とする。 2008年から2010年には在仏日本大使館公使を務めた。 著書に『シャルル・ドゴール:民主主義の中のリーダーシップへの苦闘』(慶應義塾大学出版会)、『フランスの「文化外交」戦略に学ぶ―「文化の時代」の日本文化発信』(大修館書店)、『米欧同盟の協調と対立 ―二十一世紀国際社会の構造』(有斐閣)、『ヨーロッパ国際関係史―繁栄と凋落,そして再生』(有斐閣アルマ)など。

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文化外交を専門とする機関が必要


――『中央公論』の4月号で文化外交について書かれていらっしゃいますが、文化外交とは?


渡邊啓貴氏: 「広報合戦から文化戦争へ」という副題は私の言葉ですが、日本の広報を担当した時に、日本のことを本当に理解してもらい、私たちと同じような目線で見て、考えてもらうには文化を理解してもらう必要がある。それができなければ外交広報は十分ではないと私は思います。先日、拓殖大学の総長である渡辺利夫先生のところに行ってお話していたら、同じことをおっしゃっていて「トラディショナルな日本文化の紹介を英語で出せるように今、取り組んでいるんだ」とうれしそうにおっしゃっていました。広報と結びついた文化活動が文化外交です。国際交流基金というのは、平和で普遍的な日本のイメージを広げたという功績がありますが、それは、国際交流活動です。広報外交の一端を担う文化外交とは違います。そういった文化外交を専門として、多様な外交ネットワークを束ねる機関を作った方がいい。また外交官の中にそうした文化外交を専門とする人員を育成すべきだと考えます。文化は道具ではないという批判を受けることを覚悟の上で、日本文化における価値の体系化をして、序列を作るというような作業を地道にしていかなければいけないということを書きました。

――在仏日本大使館の公使をされていたご経験などで感じられたことも影響があるのでしょうか。


渡邊啓貴氏: そうですね。広報と文化を一緒にやっていたのですが、役人というのは自分や会社が儲かるわけではないのでディフェンシブなところもありますが、やはり現場ではいろいろと苦労するところも多い。パリは大きな文化都市だから助役が36人もいて、緑地担当や国際担当など、色々な担当があります。照明で有名な石井幹子・リーサ明理さんたちがパリでイベントを実施した時に、ライト・アップ・ショーのためにパリ市の街のライトを消したりしなければなりませんでしたが、そのためのパリ市との交渉を行ったことがあります。そういった人たちとも、私は大使館の人間だから電話を入れるとすぐに交渉ができたり、一緒に食事をすることができました。そんな機会に色々なことを教えてくれます。でも民間だとそれがなかなか難しい。他方で民間の良さもあります。フランスでは美術館の館長などもドクターを持っている学者も多いので、そういう人たちとの関係は楽でした。大統領府のスポークスマンと話していて、お互いに学者だということが分かると、仕事とは関係のない話で盛り上がるわけですが、結局は親しくなることで話はしやすくなった。

――論文も含めて、電子書籍の可能性についてはどのようにお考えでしょうか?


渡邊啓貴氏: インターネットで自分のPDFなどをアップしている人もいますし、知的財産権の問題が微妙になりますが、あれは基本的には電子ブックと同じです。とても良いなと思います。紙の本のように線を引けるようになる、とかそういった部分がクリアされたら私は便利だと思います。自分が使うのはまだ紙の本です。紙の本は飛ばして読むこともありますが、今のウェブサイト上のものは、長く読まない代わりに上から順序良く読みますよね。若い人はどうか分かりませんが、私は画面が2回くらい変わったら、長いなと感じてしまいます。他方で文章が短いと「文章を味わう」という感じにはなりません。逆に言えば、物事をこの程度の文章量で理解するというのは怖い気もします。人間は言葉で考えるわけですから、分かりやすく短くがあまりにすすんでいくと、深い思考をしなくなるということになります。それに比べると本は完成されたものなので、紙の本ならではの良さがあります。読むというのは考えること。だから、電子書籍と紙の本の距離を良い点を取り入れながらいかに近づけていくのかということを考えねばなりません。

世界から求められていることを、理解しなくてはいけない


――今後さらに力を入れていきたいと思っていることはありますか?


渡邊啓貴氏: 私は元々、常に1歩引いたところでものを見たいと思ってきました。そして、それを社会に還元していきたいと思っています。学者は皆、「何か良いことを言おう。次の時代に繋がることを言おう」と考えていると思います。大袈裟に言えば、“真理の追究と人類への貢献”というような、長期的な話に関心がありますし、次の時代に向けた動きを作って行くことも私たちの責任だと思っています。それは、時代に迎合するということとは違います。

――世界から日本はどのようなことを求められているのでしょうか?


渡邊啓貴氏: 日本の文化は周囲に合わせて少しずつ動いていくのを良しとする文化なのですが、日本が世界のリーダーシップを発揮できる国になるとしたら、それでは世界に通じません。その方が居心地が良いのか、外のことを自分のこととして主体的に考えようとしない傾向があります。それでは日本が元気だった明治時代の人たちはもっと世界的視野があったかというと、そうは思いません。先日、あるエッセイにも書いたのですが、彼らは生きるか死ぬかの瀬戸際だった。前へ出て行くしかないという時代だったのです。しかし今はそうではなくて、日本にも世界をリードする国になってほしいという時代です。それなのに「世界に対する使命などというものは、私たちにはまだ必要ない」と多くの日本人は考えているように思います。押し出されて、食うか食われるかという状況にならない限りは、日本はここまでの国なのではないかと私は思います。私たちはもう坂の上に登ってしまったのです。世界は決してその坂を下ってほしいとは思っていません。去年の8月にアベノミクスで、日本の年率換算の成長率が2.5パーセントという予測が出ました。日本人は「たいしたもんだ」という感じを持ちました。しかし、アメリカもヨーロッパも経済は良くない状況です。したがって日本に、「世界を引っ張っていってほしい」と考えていたため、世界の先進国は、たった2.5パーセントという成長率に失望感を強く持ちました。それだけ大きな期待をもたれているのだということを、日本人はもっと理解しなくてはいけません。



――一今後はどのような本を出版される予定ですか?


渡邊啓貴氏: 今後は1年間に複数冊ずつ本を出したいと思っています。フランスの外交史の本と、フランスの80年代以降の政治経済のトレンドが分かるものを本にしたいと思っています。今まで雑誌に書いてきた記事などを集めて大体のところ編集し終わっているものもあります。それからもう1つは、7、8年前に米欧同盟関係の通史を書く約束をしていたので、新書版ですが、そろそろ出版したいと思います。それを元に以前出版した米欧同盟論の本を補強して、日米同盟と比較した本を出版したいと思っています。米欧同盟を考えれば考えるほど、日本外交に対する新しい視角からの提言や感想は沢山出てきます。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『大学教授』 『海外』 『働き方』 『新聞』 『留学』

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