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世界中の本好きのために

淵邊善彦

Profile

1964年広島県生まれ。東京大学法学部卒業。1989年西村眞田法律事務所(現・西村あさひ法律事務所)勤務。ロンドン大学LLM.卒業。ロンドン・シンガポールのノートン・ローズ法律事務所勤務、2000年より現職。M&A、国際取引、一般企業法務などを専門とし、国内外で活躍する。中央大学ビジネススクール客員教授も務める。 著書に『ビジネス法律力トレーニング』『契約書の見方・つくり方』(日経文庫)、『シチュエーション別提携契約の実務(第2版)』(共著、商事法務)、『会社役員のための法務ハンドブック』(共著、中央経済社)など。

Book Information

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より多くの経営者に、法律の重要性を知ってもらいたい



1987年東京大学法学部卒業後、1989年に弁護士登録し、西村眞田法律事務所(現西村あさひ法律事務所)にて勤務されました。1995年にはロンドン大学(UCL)を卒業し、その後ロンドン及びシンガポールのノートン・ローズ法律事務所に勤務。また2000年にはTMI総合法律事務所に参画。中央大学ビジネススクール客員教授。M&Aをはじめ、国際取引、企業法務全般で幅広く活躍されています。著書・共著には『ビジネス法律力トレーニング』、『契約書の見方・つくり方』、『シチュエーション別提携契約の実務(第2版)』、『会社役員のための法務ハンドブック』、『会社法務入門(第4版)』、『クロスボーダー M&Aの実際と対処法』、『企業買収の裏側—M&A入門』などがあります。グローバル社会に法律知識とセンスの必要性を説く淵邊善彦氏に、法律の道へ進んだきっかけ、弁護士という仕事、本や執筆について、お話をうかがいました。

ダイナミックな仕事に惹かれた


――M&Aをはじめ国際取引、企業法務全般と、世界を股に掛けてご活躍されていますが、TMI総合法律事務所ではどんなお仕事をされていますか?


淵邊善彦氏: TMIは企業法務に関するグローバルな総合法律事務所です。私は半分はM&Aや提携絡み、残りは顧問先の会社の企業法務全般を扱っています。弁護士・弁理士がチームで仕事をすることが多く、私は案件の全体をまとめる役割が多いので、一緒に仕事をするメンバーをいかに束ねていくか、クライアントをどう説得するか、どういう成果物の見せ方をするかといったところに心を砕いています。専門化が進んでいますから、労働法なら労働法、知的財産なら知的財産の専門家という形で若手の弁護士がリサーチ・調査をし、それをベースに契約書を作ったり、交渉したり訴訟したりします。海外の企業との案件も半分近くあります。

――出身は広島ですよね。どのようにして「法律」の道に入ったのでしょう?


淵邊善彦氏: はい、広島です。その後幼稚園から中学校1年生の2学期までは愛知県の豊橋にいましたが、父が鹿児島出身で、脱サラして鹿児島に帰ったんです。父は、もともと三菱レイヨンに勤めていたのですが、地元へ戻ってからは、親戚と自動車の修理会社をやっていました。
鹿児島はスポーツの盛んな所でしたので、中学時代はバレーボール部、高校時代はハンドボール部で、部活に明け暮れていました。
東大法学部は目標ではありました。でも、本当に法律の道に進もうと思ったのは、司法試験の勉強を始めてからですね。何が一番のきっかけだったかは分からないですが、大きな組織から抜け出して、自由にやっている父親を見ていたことが、影響しているのかもしれません。また、何か法律を使って自分なりのことがやれそうだなと、漠然と思ってはいました。力を付ければ、ある程度、自分のやりたいようにできるのかなという考えだったと思います。

――法律事務所に勤務して、最初はいかがでしたか?


淵邊善彦氏: “弁護士は裁判をするもの”という印象があったので、最初は企業法務の仕事に違和感を覚えました。企業法務を主に扱う弁護士自体が、当時はまだ稀でしたので。
事務所に入ったきっかけは、企業法務の分野がこれから伸びていくだろうと思ったからです。それに、仕事が前向きなんです。離婚や相続、刑事事件などは裁判全体が事後紛争処理ですから。企業法務は、前向きに新しいビジネスを作っていく、あるいは海外と取引をする助けをすることができるのはとても面白いと思いました。先輩に、「組織を作っていくことで、国内外の企業、あるいは政府に弁護士が入り込み、グローバルに活躍する時代が来る」という将来像を聞かせてもらい、とても魅力を感じました。

――実際に職務に就かれてみて、理想と現実とのギャップはありましたか?


淵邊善彦氏: 大きな事務所では、若いうちは毎日夜中まで働かなければならないし、契約書の作成やリサーチなど、最初は下働き的な仕事が中心になります。辛いといえば辛いですよね。でも、仕事は面白かったですね。例えばM&A。企業買収で成功すれば、新しい経営者が来てうまくいく場合もあるし、失敗したら潰れる会社もある。ダイナミックでしたね。自分たちの携わった案件が世の中に影響を与えて、経済に少しでも貢献していると思えることが面白かったです。

原動力は「好奇心」と「達成感」


――30歳の頃に、ロンドン大学へ行かれていますよね。どのように過ごされていましたか?


淵邊善彦氏: 海外の案件を扱っている事務所だったので、ほぼ順番に留学するんです。海外の方が法律事務所の専門化・組織化は進んでいますから、現地の実際の仕事を見て勉強をしたり、もちろん英語のスキルも磨かなければなりませんでした。1年目は大学に行っていたので、学生として現地の法律を勉強しました。あとの1年間は現地の事務所に行って、一緒にチームを組んで仕事をしていました。その後、半年間シンガポールにも行き、事務所で働いていました。海外でのネットワークを作るという意味でも、とても有意義でした。その時にロンドンで知り合った人たちとは、今でもクライアントや友人として、付き合いが続いています。

――淵邊さんを突き動かすものとは何なのでしょうか?


淵邊善彦氏: 好奇心と仕事が終わった後の達成感です。法律の仕事って、常に新しいことが起こりますので、それとともに仕事の分野が増えていくし、新しいことをみんなで勉強していくのは楽しいですよね。また、知識はすぐに古くなってしまいますし、法律もどんどん変わります。判例も日々増えますから、常に勉強です。

――どのような方法で勉強をしてらっしゃいますか?


淵邊善彦氏: 大きな事務所のいいところは、分野別に専門の弁護士がいて勉強会をやったり、経験を共有できる部分です。そういう所で最新の情報を共有するというのは最低限やっています。仕事をしながら新しい論点にぶつかれば、自分で周辺の分野を読んでいくことも意識的にしています。案件や研究会を通じてクライアントから学ぶところも大きいです。
あとは、本や論文を書くことも、とても勉強になります。一般向けに書く場合は、いかに分かりやすく説明するかが重要になってきます。論文の場合は、専門的な部分で評価されますから、リサーチを一生懸命にします。観点は少し違いますが、どちらも頭の整理になります。

――商社に出向されてらっしゃいましたよね。どういうきっかけがあったのでしょうか?


淵邊善彦氏: 弁護士で出向なんて、当時はほとんどなかったのですが、自分で「行きたい」と言って行きました。出向先は日商岩井という商社で、ロンドンで一緒に勉強会をしていた人が勤めていた会社です。ロンドンから東京に戻ってきた時に「弁護士に来てほしい」という話があって。当時所属していた事務所に「商社に出向してみたい」と、自分で出向契約を作ってしまいました。新しいことを常にやっている商社には興味がありました。一緒に勉強会もしていてすごく馬が合い、信頼できる人でしたので、「一緒に働けば色々なことをやれそうだな」と思ったんです。その後、日商岩井はニチメンと経営統合して双日になっていますが、その経営統合も弁護士として関与しました。

――弁護士という仕事について、どうお考えですか?


淵邊善彦氏: 弁護士は、紛争に頭を突っ込むわけですから、裏切られることもあるし不満を持たれることもある。いいアドバイスをしても結局裁判で負けることもある。お金の話も当然出てきますからギスギスすることもあるわけで、特にパートナーになればそういうこともやらなければならないですよね。何かと面倒なことも多いですが、やはり仕事内容が面白いから続けていると自分でも思うんです。
M&Aでは、会社を調査するプロセスがありますが、「つまらない」と思ってやれば非常につまらない仕事です。夜中までひたすら契約書などの書類を見なければならない。でも、「会社ってこんな風に動いているんだ」、「人ってこんなことを考えるんだ」と、興味を持てば、すごく面白くなると思うんです。それを積み重ねていけば、いろいろな案件で的確なアドバイスができるようになってきます。

「本」は知的好奇心を満たす、一番身近なもの


――どのような経緯があって、本を書き始めたのでしょうか?


淵邊善彦氏: 最初に書いた論文は、ある企業の法務部長さんに紹介されて雑誌の編集者の方と会ったのがきっかけでした。すごくかわいい女性だったんです(笑)。頼まれると断れなくて、何本も書いているうちに、他の出版社からも頼まれるようになりました。するとその論文を読んだ方が「今度は単行本を出してみませんか?」と。一般向けの本はどういったトーンで書けばいいのか分からず最初は苦労しましたね。

――今後は、どういった本を書こうと考えてらっしゃいますか?


淵邊善彦氏: 最近は特に、経営者やビジネスの最前線で仕事をする営業マン向けに書きたいと思っています。彼らに法的なリスクを感じるセンスを身に着けてもらわないと、法務部や弁護士がいくら頑張っても、グチャグチャになってしまいます。特に海外と取引していくにはリスク感覚が必要ですので、そうしたリーガルセンス(法的感覚)を経営者や営業マンに持ってもらいたい。彼らが法律の重要性を理解すれば、当然企業法務部や弁護士が重要ということになって予算も付きますし、組織もきちんと作れる。それが、面倒くさい、法律は厄介だと経営者が思ってしまうと、法務部はコストセンターと思われてしまう。でも、それではこれからはやっていけない。むしろ、法律を武器にして、攻めにも守りにも強いビジネスを展開してもらいたいと思っています。特に海外で取引する場合には何が起こるか分からないし、リスクも大きい代わりに、しっかり法律で武装すれば得られる利益も大きいのです。より多くの経営者にそうした法律の重要性を知ってもらうために、私は本を書きます。

――法務の底上げをしたいという想いなのですね。そのためには、どういったことが重要になるのでしょうか?


淵邊善彦氏: 企業と弁護士がどう連携していくかが重要です。弁護士だけでも、法務部だけでもだめで、互いがうまく情報を共有したり、人事交流することによって底上げをはかっていく。そういった取り組みをしたいと思っています。

――電子書籍は、ご利用になりますか?


淵邊善彦氏: 私は、あまり読んでないです。パソコンは仕事だけで十分、正直ほかではあまり画面を見たくない(笑)。ただ、法律書や判例を検索したり、調べたりする時は、あると便利ですね。六法にしても、紙で探すより、全文検索でパッと見つけられるので。ただ、まだなかなか良いものが揃っていません。雑誌などはそこそこありますが、法律の専門書はないですね。あとは、法律の分野で言えば、「裁判の場面とそのテキスト」という感じで、証人尋問の場面とか、絵が動いているテキストもあるとすごく勉強になりますよね。そういうのが多分、電子書籍ならではのものなのかなと思いますね。そうなると、本というよりかはビデオに近いかもしれないですが。特に欧米では、陪審員を説得するためにビジュアルな説明が必要な場合もよくあります。陪審員は一般の人ですから、その人たちが分かりやすいよう、弁護士向けに、プレゼンテーションの書面や絵を作るのを専門にしている会社もあるんですよ。

――日本ではそういうビジュアルを使ったやり方はしないのでしょうか?


淵邊善彦氏: 日本であまりやると、裁判官に「やり過ぎだろ」と言われちゃいます(笑)。ただ、最近は裁判員制度ができたので、多少はあるかもしれませんね。

――紙の本は、どんなものを読まれますか?


淵邊善彦氏: 恋愛小説、歴史小説、推理小説など、何でも読みます。特に新書は分野を問わず気になったものを次々に読みますね。ただ、やはり仕事にどこかで関連する本が多いです。土日のどちらかは必ず書店に行っていますし、ちょっとした空き時間にも行きます。だいたい待ち合わせは書店でします(笑)。
その時の気分と、自分の関心で本を選びます。例えば技術系の会社のM&Aを手掛けていれば『下町ロケット』を買うし、労働問題に携わっていれば『ブラック企業』なんて本を買ったりしますね。
本は、僕にとって、知的好奇心を満たしてくれる物で、一番身近で手に取りやすい物。特に小説は文庫になるのを待つ方で、通勤や出張での移動中に読むことが多いです。

グローバルでの競争の時代。企業には海外案件に強い顧問弁護士を


――執筆活動を通じて伝えたいこととはなんでしょうか?


淵邊善彦氏: 法律の重要性を広く知ってもらいたいです。でも、法律の本って売れないじゃないですか(笑)。私が書いた本でも新書で1万部ぐらいです。専門書だと3000部売れればいいほうです。この間出した『ビジネス法律力トレーニング』は、『戦略思考トレーニング』のシリーズ本なんです。かなりわかりやすく面白く書いたつもりですが、やはり法律というととっつきにくいのでしょうか。『戦略思考トレーニング』は10万部売れていますから、本当は同じぐらい読まれるようになるべきだと思うんです。戦略思考といったコンサルティングも大事ですが、法律はもっと大事で、会社が生きるか死ぬかになることがあるわけですからね。

――法律は、どのような場面で重要なのでしょうか?


淵邊善彦氏: 何となく法律というと、刑事事件や日常的な相続、離婚などが出てきてしまいますが、企業を守るために、またグローバル競争をするためにも重要です。海外の企業にはほとんどの場合、弁護士が法務部にいて、日本とは人数も予算も桁違いです。経営者が弁護士だったりすることもあります。日本企業は、そういう人たちと素手で戦っているようなものなんです。向こうは重装備をしているわけで、それは、これから本当にじわりじわりと効いてくると思うんですよ。日本企業は「これからはアジア新興国」と言ってどんどん海外に出ていますが、ほとんどが丸腰で行ってしまっているわけです。

――そこで企業には海外案件に強い顧問弁護士が必要になるわけですね。


淵邊善彦氏: しかし、そのような顧問弁護士を持つ企業はまだ少ないです。大企業でもそうですが、中小企業はなおさらです。グローバル競争に勝ち残ろうという企業は、顧問でなくてもいいですが、すぐに相談できる信頼できる弁護士を持つべきです。日弁連でもその点は認識していて、中小企業をいかに支援するかということを考え、いくつかのプロジェクトを進めています。私も海外展開の法的支援に関するワーキンググループの委員をしています。中小企業へのアドバイスが十分できていないのは弁護士にも問題があって、もともと人数が少なかったのもあって企業法務をやる人が少なく、訴訟ばっかりやっていました。しかも、英語のできる人や国際取引に詳しい人がほとんどいませんでした。でも、今後は企業法務をやる弁護士の数も増えますし、企業の方もニーズも増えますから、うまくマッチングさせればもっといい関係ができると思います。



――執筆に関する今後の活動について、お聞かせ下さい。


淵邊善彦氏: ちょうど今、会社法や金融商品取引法の改正などで、ここ数年、かなり法律が変わりましたので、改訂しなければならない本が3冊ほどあるんです。それを改訂した上で、何かまたいい企画を出したいなとは思っています。より多くの読者に読んでもらうために、小説のような形式で企業法務に関する本を出すのもいいかなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 淵邊善彦

この著者のタグ: 『海外』 『原動力』 『法律』

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