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田中靖浩

Profile

1963年生まれ、三重県出身。早稲田大学商学部卒業。外資系コンサルティング会社などを経て独立。経営コンサルティングやセミナーから、書籍執筆、雑誌・新聞連載、テレビ・ラジオ出演、落語家・講談師などとのコラボイベントまで、幅広く活躍している。主な著書に『右脳でわかる! 会計力トレーニング』『経営がみえる会計』(ともに日本経済新聞出版社)『数字は見るな!』(日本実業出版社)、など多数あり、数点は海外でも出版されている。近著に『貯金ゼロでも幸せに生きる方法』(講談社)。

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情報格差がなくなり、再び「力のぶつかり合い」に



田中靖浩氏: その本能は、先ほどお話したフリーランスで、何の仕事をやればいいんだろうかという感覚に近い。相手にどう接すればいいかとか、答えは何もないですけど、直感的にこういう接し方がいいというのは本能に近い感覚です。デジタルの情報が入ってきて、「答え」が直線的に手に入るようになると、その感覚が鈍る。想像力が働かない。Internet Explorerで、検索キーワードが先読みされて出てくる環境は私にとって絶望的です。その瞬間に検索する気がなくなる。自分と同じようなことを調べている人間がいっぱいいる。つまりその人たちを超えられない(笑)。時代がみんな直線的な答えを求めているので、私は無駄を身につけようと思っています。

――一方でITの情報処理などの価値は無視できません。どのように付き合っていけば良いのでしょうか?


田中靖浩氏: 将棋の羽生善治さんが、最近将棋のレベルが上がった、と書かれていました。将棋の世界でも、データベースや検索の機能は革命的で、従来は簡単に入手できなかった過去の名人戦の棋譜などが簡単に手に入るようになった。これまでは持っている人にあいさつに行かなければ手に入らないとか、国会図書館にわざわざ行って見ないとだめというレベルの棋譜が、デジタル化によって簡単に手に入る。みんなが容易に勉強できる環境に変わったことで、みんなのレベルがぐいっと上がった。結果的に若い将棋の棋士は勉強することが増えて、自分で自分の首を絞めたかたちです。羽生さんは「結果的には、昔ながらの力と力のぶつかり合いに戻った」と言っているんです。いったん情報があれば勝てるという時代が来たけれど、みんながその情報を理解すると、またひとつ戦いのレベルが上がって、力と力のぶつかり合いに戻る。

――出版業界も電子技術の発展で、さらに競争が激化するのでしょうか?


田中靖浩氏: 便利さというのを誰かが享受している一方で、経営環境には厳しさが絶対出てきます。将棋ほど具体的ではないですけど、デジタル情報が配信される世の中になると、出版社の経営は厳しくなります。直接的に著者が読者に配信することが可能になるからです。読者は別に紙が欲しかったわけじゃない。技術の発達で一部の人が厳しい状況に陥った後に来る力と力のぶつかり合いをどうとらえるかです。『経営がみえる会計』も、14年前だから売れたんですけど、今出したら売れてないでしょう。ほかの同じ会計書との関係で、あの時はこれが目立った。タイトルもデザインも目立ったし、中身も評価される中身だった。要するに周りのレベルが低かった。でも今は、会計の本のレベルは上がっている。書く側のレベルも上がって、それ以上に『1秒でわかる~』とか、出版社のえげつないタイトル付けのレベルが上がっている(笑)。

会計を取り巻く全体を描き出したい


――力と力のぶつかり合いの時代に、どのような心構えで臨めばよいでしょうか?


田中靖浩氏: デジタルに置き換えられないアナログな力をどうやって設定するかということだと思います。カメラでいうと、フィルムのカメラからデジタルになったとき、そこで「Photoshopが使えるかどうか」という選別・競争が生じました。ただそのような技術の有無は、たしかに1つのハードルでしたが、あんまり本質じゃなかった。いい写真、構図をどう取るかとか、そういう1番本質的なところに戻ってくるんですね。

――田中さんご自身が今後突き詰めていきたいことなど、活動の展望を教えてください。


田中靖浩氏: いまは「情報とは何ぞや」というのが私の研究テーマです。会計が扱う数字も「情報」ですが、情報はもともと「敵情を報知する」という意味の軍事用語です。帝国陸軍の軍医だった森鴎外が、「information」の訳として広めていった。現在、私たちが情報と呼んでいるものに、英語圏ではinformationとintelligenceの2つがあります。しかし私たちの日本語ではこのどちらも「情報」。私たちにはintelligenceという感覚が全くない。informationというのは生データのことです。文字とか写真とか記録ですね。intelligenceは、それを収集、加工、分析した結果です。だからintelligence は行動とか判断に役に立つものでなければいけない。日本は今、データベースとかクラウドとか、informationを増やすという方向にばっかり行っている。ビッグデータがあるのはいいですけれど、データは整理して分析できなきゃ何の役にも立たないんです。競馬でも、競馬新聞をいっぱい買う人間に限って当たらない(笑)。勝負事において情報は少ない方がいい。これからはintelligenceを経営に適用し、「経営に役立てる数字情報」を提供する仕事をしたいと思っています。



――会計の「intelligence」を提供していくということでしょうか?


田中靖浩氏: 昔は、会計のinformationが伝票とか帳簿で、それを整理整頓、加工、分析して、決算書を作れるのが会計士だった。今はIT革命で、パソコンとかアウトソーシング会社がそのプロセスを全部やってくれます。そうすると、決算書とか申告書という、私たちが金をもらってきた仕事をinformationとして、そこからどうやって経営者にintelligenceを提供するかが重要です。ここまでくると、もう会計にこだわる必要はなく、阪本さんのようなマーケティングの専門家と一緒にしたり、場合によっては落語家さんと一緒に表現する方法もあります。従来よりも上のレベルで会計を自分の中で消化して、会計を取り巻くものの全体を何か違った形で表現するところに持っていきたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 田中靖浩

この著者のタグ: 『大学教授』 『コンサルティング』 『考え方』 『こだわり』 『アナログ』 『研究』 『デジタル』 『会計士』 『情報』 『態度』 『タイトル』

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