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西条真二

Profile

11月25日生まれ。1992年週刊少年チャンピオン増刊(秋田書店)にて「怪奇同盟」でデビュー。同年原作に緒田太一を迎え、佐竹雅昭の実録マンガ「となりの格闘王」を連載した。1995年には同誌にて料理バトルマンガ「鉄鍋のジャン!」をスタート。主人公がヒールという構造の新鮮さもあり好評を博した。以降週刊少年サンデー(小学館)、ヤングアニマル(白泉社)、週刊少年マガジン(講談社)、月刊ドラゴンエイジ(角川書店)と多誌にわたって活動。2006年、古巣の週刊少年チャンピオンに戻り「鉄鍋のジャン!」の続編「鉄鍋のジャン!R」を連載開始した。

Book Information

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携帯電話は持っていません―電子の時代になっても漫画家は変わらない―


――西条さんは電子書籍を利用されていますか?


西条真二氏: いや、してないです。実は携帯電話も持っていません。ほぼ必要ないんですよ。自分は漫画を描いているんで、ほぼ仕事場にいる。そうすると編集者からの連絡とかも、固定電話で受ければいいわけで、わざわざ携帯電話を買う必要がない。最近はYouTubeで、売っていないものが聴けるようになったのはすごいですね。中学生のときに聴いた西田敏行の「いもうと」という歌とか。そういう意味ではインターネットっていうのは非常に便利だなと思います。

――電子書籍が登場したことによって、今後描き手として、何か描き方が変わることはあると思いますか?




西条真二氏: 今まで特に変化はなかったので、これからもそれほどはないと思います。ただ、昔はごく一部の人しか知らなかった知識が、インターネットのおかげで非常にメジャーになってしまった。例えば、『鉄鍋のジャン』で描いた、内臓肉の臭みを取るには牛乳に漬けるという方法があって、西洋料理人の間では知られていた。当時はまだインターネットがそれほど普及してなかったので、和食や中華のほうでは知られてなかったので、そういうネタも通用しましたが、今はそれは通用しない。インターネットのおかげで、どんな知識も広く一般に知れ渡ってしまって。XO醤も、『鉄鍋のジャン』で使ったときはまだ主流じゃなかった。こんなおいしい調味料っていうのがあるのかっていうくらい。でも今ではXO醤はごく当たり前にどこのスーパーでも売っている調味料になってしまいました。インターネットが便利で知識が広がった分、描き手がネタを出しづらくなったというのはありますね。中途半端な知識で描くと、かえって読者にばかにされるので、もっとまじめに描かなきゃいけないぞと。

編集者は軌道修正ができるアドバイザーであれ


――そんな中、数々の作品を世に出されてきましたが、漫画家として、製作過程でアシスタントや編集者が果たす役割に、期待するものはありますか?


西条真二氏: アシスタントへの期待は、俺の手の足りないところを代わって補助してくれること。編集者は、例えば俺が描いている漫画が進む方向がゆがんでいる場合、「そっちはダメだよ、こっち向けよ」といってくれる人。軌道修正してくれるので、描いていく上では必要な存在ですね。

少女漫画やエロ漫画には、「半歩先の感性」がある


――漫画も含め、ここ最近で読まれた本で、おもしろかった本は何ですか?


西条真二氏: 実は少女漫画が大好きで、少女漫画家になりたかったんですよ。だけど、残念ながら俺には少女の心はなかった。それでもいまだに少女漫画は読んでいます。例えば『残酷な神が支配する』(小学館文庫)を描いた萩尾望都。大作家ですけどこの作品は、ホモセクシュアルの義理の父に犯され続ける少年の話です。ほかには『マージナル』(小学館文庫)というSFがあって、地球が男だけの世界になってしまって、そこで人間がどうやって生きていくのかという話です。地球上にたった一人マザーという女を造ってその女をあがめることで、みんながなんとか生きている。だけどそのマザーが殺されてしまう。全ての人類がそのマザーから生まれているのにその母親を殺すという非常におもしろい、いびつな世界ですね。あと清原なつのさんも好きです。『花図鑑』(ハヤカワ文庫JAコミック文庫)という、女の子を花にたとえてオムニバス形式で描いていく漫画があったり、『金色のシルバーバック』(ぶーけコミックス)といって、ゴリラの青年と人間の女の子の恋が始まる物語なんかがあります。

―― 一般の普通の漫画とストーリーが全然違うのですか?


西条真二氏: 清原なつのさんという方は非常におもしろい感性を持っていて、『青葉若葉のにおう中』という漫画の中で数式が出てくるんですけど、「夜から朝にかかて男と女がやることは?」という式なんです。主人公の聖子ちゃんという女の子が自分の大好きな先輩、金之助っていう男の先輩が一晩ほかの女と過ごしているのを目撃したときに、聖子ちゃんの頭の中に思い浮かぶのが、数式なんですよ。なんで自分のあこがれの先輩と恋敵が過ごしているのを見て、数式が思い浮かばなきゃいけないんだと。この感覚が、これは少女漫画しているなと、衝撃的でしたね。中学3年生のときだったんので、「すげえ!清原なつの!」と、それからずっとファンですね。自分には絶対に描けない世界なわけですよ。あと、岩館真理子とか。好きな少女漫画家はいくらでもいますけど、そういう自分にはない感性を見ると、「ああっ、衝撃!」って思いますね。今度TONOっていう漫画家さんが『カルバニア物語』(徳間書店)という作品の14巻を出すので、それを心待ちにしています。

――その衝撃がご自身の作品に生かされていますか?


西条真二氏: 生かせる場合もあるんですけど、生かせない場合のほうが多いかな。だから俺に衝撃を与えてくれる漫画家さんの存在は、ありがたいわけですよ。同じような衝撃を与えてくれる漫画家さんで、風船クラブって名前のエロ漫画家がいるんですよ。その人の漫画でおもしろかったのは、「クラスで飼っていたインコのピーコちゃんが死んでしまいました。私がえさをやり忘れたせいです」という女の子のせりふから物語が始まる。クラスのみんなは、「みんながお金を出し合って買ったペットだぞ。どうするんだよ、このペット殺しー!」と非難する。それで、ホームルームで、「このペット殺しをどうするかこれから決めるぞ」、と先生が言い出すわけです。そしたら女の子が一人立ち上がって「〇〇さんが、クラスのペットを殺してしまったんだから、今度は〇〇さんがクラスのみんなのペットになればいいと思います」って展開になって、その女の子は、それからクラスのペットとしていろんなひどい扱いをされていく。それを見たときに「すげえ!この発想はなかったわ」と。そういう理屈が思い浮かぶっていうのが、自分になかったものだったんで、ガーンと来る。すごくいい刺激になるわけですよ。

だから普通の少年漫画とか青年漫画とか見ていても、正直いって全然おもしろくないんですが、エロ漫画のそういうわけのわからない感性や少女漫画の感性からは、いい刺激をもらっていますね。吾妻ひでおの『パラレル教室』という漫画の中では、太陽のあまりの輝きに気が狂ってしまった少年が、女の子の父親と母親を事故で殺して、その女の子が一人になったときに、「親と子はいつかは離れ離れにならないもの。泣いてどうする」というんです。そこまでは正しい。でもその次のコマで「笑え!」っていうんです、棒で脅しながら。そうすると女の子は笑うわけですよね「わはははは」と。それを読んだときに、確かに親と子はいつかは離れなきゃならない、泣いてどうする、それは正しい。でも笑えっていうのはないよなと。それを見たときに「吾妻ひでお、すげえな」と思います。

――通りいっぺんの娯楽的な思考ではなく、そういった衝撃を受けるような作品がお好きなんですね。




西条真二氏: 漫画のおもしろさは半歩先にあるといわれますが、吾妻ひでおや風船クラブの作品は、まさに半歩先ですよね。そういう半歩先の感性を俺に与えてくれる漫画っていうのはありがたいですね。少年漫画や青年漫画にはそれはないものです。誰かが考えつくことは自分にも考えつくんでね。

「エネルギッシュならば七難隠す」


――少年画報社からの連載が始まりますが、今後の活動はどうなりますか?


西条真二氏: 今までの自分のスタイルをもっともっと突き詰めていきたいと思っていますね。一応「エネルギッシュならば七難隠す」というのがポリシーでして。俺は昔、自分はすごく絵がうまいと思っていたんですよ。でも、プロになってみれば俺よりもうまいやつはたくさんいる。そいつらに対抗するには、死に物狂いでガシガシガンガンやってくしかない。パワフルにエネルギッシュにアグレッシブに。その気持ちを持ち続けている限り、俺の技術のつたなさや欠点は隠れるわけですよ。だから、「稼ぐに追いつく貧乏なし」とかそういう感じ。女房もいっていますもん。「私は運がいいんだ」とか「金運はいいんだ」とか。

――そのエネルギーで次に何を描いてくれるのでしょう?


西条真二氏: 時代劇を描きたいですね。まあ、時代劇、豊臣秀頼とか淀君とかそこらへんとかも描きたいですし、以前『鬼の作左』という漫画を描いていまして、それが出版社の都合で終わってしまったんで、続きを描きたいなっていうのはありますね。やっぱり、アグレッシブに前向きにへこたれないでやっていかないと。後ろ向きに歩いているネガティブなやつには誰も協力してくれないんですよ。前向きに歩いていればみんなもなんだかんだで協力してくれる。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 西条真二

この著者のタグ: 『感性』 『考え方』 『インターネット』 『漫画家』 『アシスタント』 『夢』 『携帯電話』 『衝撃』

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