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世界中の本好きのために

石原壮一郎

Profile

1963年三重県松阪市生まれ。埼玉大学教養学部卒。雑誌編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。世に「大人」の新しい概念と奥深さを知らしめた。以後、独特のユニークな文体を駆使してビジネスから恋愛まで幅広いジャンルで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。2004年刊の『大人力検定』(文藝春秋)は雑誌、テレビ、ラジオ、Webなどあらゆるメディアで大きな反響を巻き起こした。監修を務めたニンテンドーDS版『大人力検定』『大人の女力検定』(KONAMI)も好評。最新刊は『職場の理不尽-めげないヒント45』(新潮新書、共著)。

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電子書籍は、映画とテレビのように共存できるのか


――電子書籍を使うというのは、習慣の問題なのかもしれないですね。


石原壮一郎氏: レコードとCDみたいな比較もされますよね。レコードが駆逐されてCDになったのはCDが便利だからだと思うんです。でも、本をレコードみたいなものだと思っちゃうと駆逐されるような気になっちゃいますけど、レコードは不便だからなくなったと思うんですよ。取り扱いもめんどうくさいし割れやすいし。むしろ本のほうが便利な部分がものすごくたくさんある。電気がいらないし、丸めて持ち歩けるし付せんをはったりできる。慣れと言ってしまえばそれまでですが、本を読んでいるっていうのは自分が本というものを支配している気がするんですけども、電子書籍だと、いまだに機械に振り回されているような感じが抜けない。紙との方が対等の立場でお付き合いできると思うんですが、機械だと従属根性みたいなものを押し付けられているようで嫌な感じなんです。去年一昨年あたりは、電子書籍元年だの何だのと言われて、いろんな立場の人が過剰に期待していたところがありましたが、それは収まって、最近はわりと冷静な付き合い方ができているんじゃないかと思いますね。最初のうちは憧れたりはしゃいだりして、色々なことをやってみて、やがて力を抜いて普通にやるのが一番と思えるみたいに。別に、僕自身は本にこだわったりとか、「活字は本じゃなきゃ」という風に思ってるわけではない。でもこの変化が映画とテレビのような移り変わりなのか、レコードからCDのような変遷なのか、どれに一番近いんだろうということは考えますね。

――映画とテレビの関係というのはどういうことでしょう?


石原壮一郎氏: 結果的に映画とテレビは共存しましたよね。最初は目新しいテレビのほうに目がいって、もう映画なんてなくたっていい、あんなものは時代遅れのものだってさんざん言われたけど、でもテレビにできないことがいっぱいあって、映画は映画で今でも立派に産業として成り立っている。むしろ映画の収益でテレビは助かっているみたいなところもありますしね。ちゃんと選択肢が増えたってことになっている。そういう流れになっていくのか、CDとiTunesStoreみたいになっていくのか。CDを買うのって、僕らぐらいの世代以上だけですものね。

「これを知らないと世の中についていけない」という言葉は大抵うそである



石原壮一郎氏: メールにしてもパソコンにしても、乗り遅れて使えこなせなくて「俺には必要ない」と言い張るおじさんはさすがにいなくなりましたし、そんなことも言っていられなくなりましたけど、「これを知らないと世の中についていけない」とか、「これを知らないと人生損する」とか言われているものって、大抵うそだと思います。新しいツールやシステムを嬉しそうに使って得意げにそんなことを言っている人は、現状が満たされていないからそこに望みをかけているんじゃないかと、そういう風に見えてしまいます。Windows95ができたころ、その前後ぐらいのパソコン業界に生息なさっていたのは、それはそれは気持ち悪い人ばっかりでしたからね。この人は普通の会社だとやっていけないだろうっていう人が、パソコンを使えるということで自信を得たおかげで水を得た魚みたいになってた。パソコンやネットに過剰な期待と、肥大した夢みたいなのを抱いている姿をさんざん見てきたものです。去年あたりも電子書籍に対して、そういう感じで取り組んでいる人がちらちら見受けられましたけど。ま、そんな人はすぐいなくなって、ちゃんと地に足をつけて取り組んでいる人たちこそが、これからのこの道を開いてくれるんじゃないかと思いますね。

――ご自身の本が電子化されて読まれるということについて、どのように思われますか?




石原壮一郎氏: 電子書籍っていうものがこの世になかったころに書いた本とかも、そういう風に読まれているわけですよね。なんとなくそれは「してやったり」という感じですね。新しい媒体で新しい読者に読んでもらえるのは、もちろんうれしいんですよ。でもなんていうのかな、こうやって電子書籍とかiPadの悪口ばっかり言っていて、それの中に自分の本が入っているとなると、ものすごい勘違いですが、「iPadにひれ伏されている」感じですね。そんなに入れたいっていうなら入ってやってもいいよと。ま、向こうは向こうで、入れてやっていると……いや、カケラも意識してないでしょうけど。

過去の人生相談のQ&Aを集めて、上手く笑って役立てていきたい。


――最後に「こんなことをまた世の中に発信していきたい」ということはありますか?


石原壮一郎氏: 大人っていうキーワードはずっとやってきていて、これからも発展させていきたいと思っています。それと同時に、ずっとコレクションをしているのが、人生相談の本なんですね。自分でもいろんな媒体で回答者としてやらせてもらったりもしているんですけど、本になったり雑誌に載ったりしている過去の人生相談を片っ端から集めています。「女の子にモテません」とか「上司とウマが合いません」といった悩みのジャンルごとに、いろんな人の回答のコピーがストックしてあるんです。今は「宅ファイル便」のサイトで、ひとつのジャンルについての回答を見比べる「大人のお悩み教室」という連載をさせてもらっています。これからさらに深く悩みというものを研究して、人生相談の無数にあるQとAのやり取りを、面白い形にできないかなって思っているところですね。例えば、「夫が浮気しました」みたいな悩みだと、昔だとみんな「我慢しなさい」と言っていたんです。今は「さっさと別れなさい」と言われる。そういう時代による変化は確実にありますね。今悩んでいる人や、自分がとんでもないことをしちゃったと思っている人も、価値観はいつどう変わるかわからないし、自分の感情すらもあてにならないと思います。こういうことを説教臭くなく上手に笑うことができたらいい。実際悩んでいる人たちにとっても救いにはなるのかなと考えています。あ、あと伊勢うどん活動もがんばります。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 石原壮一郎

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